硝子の物語Story

歴史

ものづくりのまち、墨田区とともに歩んできた道

歴史 | 2024.8.26

廣⽥硝⼦は、墨⽥区内にあり、東京でもっとも古い⽼舗ガラスメーカーの⼀つ。製造⼯場と連携しながら、時代に合ったガラス製品を⽣み出してきました。

 

そして墨⽥区には、ガラスのほかにも⾰製品や鋳物、繊維など多くのものづくりに関わる事業者が集積し、発展してきた歴史があります。近年は「すみだモダン」という地域⼀体となっての施策もあり、“ものづくりのまち”としてのブランド⼒を⾼めてきました。

 

廣⽥硝⼦も、そうしたすみだのまちとともに、⾃社の取り組みを深化させてきたと⾔えるかもしれません。廣⽥硝⼦と墨⽥区のこれまでを、墨⽥区産業観光部産業振興課の根岸菜奈さん、川満冴佳さんと廣田硝子の四代目・廣⽥達朗さんとともに振り返ります。

 

 

 

 

 

「すみだモダン」と廣⽥硝⼦

 

2009 年に始まった「すみだモダン」とは何か。またどんな経緯で始まったのかを、担当の根岸さんが教えてくれました。

「⼀番のきっかけは、 東京スカイツリー®の誘致が決まったことです。多くの⼈が訪れることになるこの機会に、すみだのものづくりを⼀つの地域のまとまりとしてブランディングし、盛り上げていこうと始まった事業が『すみだ地域ブランド戦略 すみだモダン』 です」

 

その柱になるのが「すみだモダン認証制度」です。過去を継承しつつ、今の時代に合ったものづくりを評価する制度で、これまでに177点(シリーズ商品含む)の商品が認証されています。

 

廣⽥硝⼦も第1回の江戸硝子しょう油差しをはじめ、2011年に「東京復刻硝⼦―BRUNCH」、2012年には「花蕾(Karai)」、2017年には「WAYOU」、2023年に「なつかしのガラス瓶シリーズ(招き猫・地球瓶)」と「和ガラス」の魅⼒を伝える活動と、これまでに5回認証されてきました。

「廣⽥硝⼦では、かねて和ガラスの伝統を後世に残したいという思いがあり、江⼾切⼦や伝統技法を⽤いた品、過去の復刻版などを多く扱ってきました。そうした姿勢が、すみだモダンの⽅針に合致するところもあったのかもしれません。また、すみだモダンを通して、新しいチャレンジができ、廣⽥硝⼦にとってはすごくいい刺激をいただいたなと思っています」(廣田さん)

 

すみだモダンでは、国内外のデザイナーとのコラボレーションも積極的に進めており、廣⽥硝⼦の「WAYOU」は台湾デザインセンター(現:台湾デザイン研究院)との協業により⽣まれました。

根岸さんは話します。

 

「すみだモダンの認証商品を、まとめて紹介する展⽰会も積極的に⾏ってきました。⼀事業者で開催するよりも注⽬してもらいやすく、皆さんのさらなるPRの場として、活用いただいています。廣田さんのように、海外から声をかけられて新しい取引が始まったと伺うと 、区としてもすごく嬉しいです。

 

 

 

 

 

すみだから、和ガラスの⽂化を届ける

 

廣⽥硝⼦を訪れると、店頭には、「すみだ和ガラス館」の⼩さな看板が出ています。1階は直営店、3階が「和ガラス美術館」、4階は「和ガラス研究室」になっているのです。

 

美術館には、明治時代から現在にかけてつくられたガラス製品が陳列され、和ガラスの変遷を⾒ることができます。2023年にリニューアルオープンし、⽉2⽇の完全予約制でお客さまを受け⼊れています。

 

なぜ、こうした美術館を始めたのでしょうか?

「昔は、墨⽥区を中⼼にガラスの製造⼯場がいくつもありました。⼀つの⼯場で⽣産が追いつかないときは複数の⼯場で協⼒し合うなど、和ガラスの歴史は、すみだのみんなで切磋琢磨して助け合ってきた歴史ともいえます。

 

そうした歴史をまちの資産として⽣かせたらと考えました。ここでガラスをつくり続けてきたことを伝え、すみだがガラスのまちだったことを知ってもらえたらと思ったのです」(廣⽥さん)

 

⽉に2回程度、オープンする⽇は廣⽥さん⾃らガラスの歴史を解説するツアーを⾏います。毎回予約が埋まるほどの⼈気だそう。

 

「当初想定しておりませんでしたが、若い⽅も来てくれて、アンケートに感想を書いてくださいます。ガラスが好きだったが、知らなかったことも多かったといった嬉しい感想をいただくと、⾃分でも感動して、ああやってよかったなと思いますね」(廣⽥さん)

 

この美術館と研究室を整えるのにも、墨⽥区の⽀援を受けています。

墨⽥区では、新しい製品や技術、サービス、ものづくりコミュニティを創出する拠点をつくるための⽀援制度があり、これまでに10拠点が誕⽣しました(*)。

廣⽥硝⼦で運営しているのもその1つです。

担当の川満さんはこう話します。

 

「区としては、ものづくりに関⼼のある⽅々に墨⽥区に来ていただきたいというのが⼤きな⽬的です。区内はもとより、区外の⽅とも⼀緒にすみだのものづくりを盛り上げていけたらということですね。外の⼈たちが気軽に関わることのできる⼊り⼝を⽤意して、事業者さんと関係を築いていただく。そんなコミュニティづくりを後押しする取り組みです」

 

 

 

 

 

連携し⽀え合う⽂化

葛飾北斎画「富嶽三⼗六景 本所⽴川」

 

事業者の求める形で、⾏政も⽀援をする。この地域⼀体の関係性は、墨⽥区ならではの⾵⼟かもしれません。隅⽥川や近隣の運河が整備されて以来、この⼀帯は⽔運の利便性がよいことから、ものづくり産業が発展してきました。

 

「江戸時代からこの地域でつくられた品物は、隅⽥川を通じて⽇本橋や浅草などに運ばれていました。⾃分たちだけではものづくりは完結しない。協⼒し合う仲間、売ってくれる店、使ってくれるお客さまなど、市場と商流があってこそ商売が成り⽴つということを肌で知っている⼈が多いのかもしれません」(廣⽥さん)

 

30年あまりの歴史があり、現在では毎年春と秋に開催される「すみだガラス市」も、行政との連携があって始められたもの。毎回、手作りガラスなどのガラス製品を求めて多くのお客さんで賑わっています。

 

「墨⽥区には、『⾃社だけでなく、みんなで嬉しい⽅がいいよね』と思ってくださる事業者さんが多い気がします。区の職員と事業者の方々との距離も近くて、ともに発展していこうとするいい空気感が浸透しています。事業者さんたちがいいことも困ったことも含めて共有してくれるからこそ、私たちも『こんな取り組みできたら、事業者さんの役に立てるのでは?』と、アイデアを出すことができるのです」(根岸さん)

 

 

 

 

 

ものづくりにも、思想が問われる時代

 

2023 年、廣⽥硝⼦の「独自の研究による製品作りと美術館での展示を通じて、『和ガラス』の魅力を伝える活動」「なつかしのガラス瓶シリーズ(招き猫・地球瓶)」が「すみだモダン」に認証されました。商品だけでなく、活動も含めて認証を受けたというのは特筆すべきことで、「すみだモダンブルーパートナー」として位置付けられました。

(*)お話をお伺いした、墨田区産業共創施設「SUMIDA INNOVATION CORE(SIC)」

「墨⽥区の様々な事業に参加してよかったことの⼀つは、同じ区の異業種の⽅々と知り合えたことです。ほかの事業者さんがどんなことを考えてものづくりをされているのか。学ばせていただき、廣⽥硝⼦ならではの強みや、地域に還元できることを考えてきました」(廣⽥さん)

 

ものづくりにも、その根幹となる考えや思想が問われる時代。なぜこのメーカーはこの品をつくり続けるのか。会社としてどんな社会的役割を果たそうとしているのか。そうした会社のありようは、地域にも影響を与えます。

 

「墨⽥区の中で廣⽥硝⼦さんが実践されてきた試みは、ほかの事業者の方々にとっても、参考になったり、刺激になったりする⾯があると思います。そうしたトライが伝播すれば、墨⽥区のものづくり全体がより強いものになっていくと思うんですね。事業者さん同士のつながりが深い“ものづくりのまち すみだ”だからこそ生まれる、そんな相乗効果を期待しています」(根岸さん)

 

すみだでガラス産業を率いてきた廣⽥硝⼦。これからも“ものづくりのまち”を⽀える⼀プレイヤーとして、役割を担っていきたいと考えています。

 

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(*)新ものづくり創出拠点

たとえば、⾦属の板金・プレス加⼯を営む製作所が運営する拠点には、先進的なものづくりを行うスタートアップ企業などが訪れ、ものづくりの開発⽀援を⾏っている。印刷事業者が運営するシェアオフィスには多様なクリエイターが集い、彼らがこだわりのある印刷物をつくる場合に相談にのるようなケースも。

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(*)墨田区産業共創施設「SUMIDA INNOVATION CORE(SIC)」

廣田硝子の近くに位置する施設で、社会課題に取り組むスタートアップ企業と区内ものづくり企業との“共創”を生み、ともに成長する場として設立された。区内ものづくり事業者が手がけた什器が配置され、区内で開発を進める製品を展示している。毎月イベントも実施している。

 

 

 

⽂ 甲斐かおり

写真 yuki tsunesumi

校閲 Yuki Takimoto