廣田硝子は、2021年からリサイクルガラスの研究を始めました。戦後、ガラス食器の企画製造販売を専門とし、製造工場と連携しながら数々の品を生み出してきた廣田硝子。その製造工程でどうしても出てしまうガラスのロスを何とか再利用できないものかと始まったのが、リサイクルの研究です。
いま第一弾として進めているのが、リサイクルガラスを使ったジュエリーの試作。できあがってきたのは、膨らんだ水滴のような丸い透明の粒が愛らしい品々です。
四代目の廣田達朗さんと商品開発を担当する安元千冬さんに改めて語ってもらいました。
時代に求められるリサイクルガラス
もともと廣田さんには、廃棄ガラスに対する課題意識がありました。
「とくに江戸切子で使用する被せガラスでの吹きガラスの製法でつくる品は、カットする頭の部分を廃棄することになり、年間ではかなりの量になります。当然、店頭でも損傷が出ますし、お客さんから割れてしまったガラスについて何とかならないかといった問い合わせをいただくこともあります。長年ガラスに関わってきた身として、ずっと気になっていました」
加えてここ数年、ガラスのリサイクルに関する相談をもちかけられることが増えました。
「ある車の会社から、フロントガラスを再利用してクリスマスのオーナメントをつくれないかと相談を受けたのが最初でした。同じ頃、リサイクルガラスを使って何かできないかとか、化粧品メーカーのテスター瓶のリサイクルの話など、立て続けに相談が入るようになって。まずはうちや工場で捨てているガラスを再利用できないかと考え始めたのです」
溶かしたガラスから生まれた美しい粒
ところがガラスはもともと扱いが難しく、リサイクルといってもそう簡単にはいきません。
「たとえば、同じ透明のガラスでも、Aという工場でつくられたものとBという工場でつくられたものでは、ガラスの組成や色味が微妙に違います。それが混じってしまうと、リサイクルには使えない。また、色が入っていると難しいんです」
戦後以降、工場をもたずにきた廣田硝子ですが、リサイクルガラスの研究のために、電気窯など何台かの機材を揃えることを決めます。自社で製造を行っていなかったことを考えると、大きな挑戦であり、2年ほど前から本格的に研究を進めてきました。
「透明なガラスを粉砕して粉にして、またガラスにしようと思っても、電気窯では温度が足りなかったりして、なかなかガラス特有の透明感が再現できないんです。雑物が混じっていると、グレーに濁ってしまって」(廣田さん)
ところがある時、安元さんが窯に残っていたガラスの欠片を見つけました。安元さんはものづくりが好きで、リサイクルガラスを用いた商品開発の担当になっていました。
「ガラスの溶け方の実験をした後だったと思いますが、丸い透明のガラスの粒がいくつか残っていたのです。ああきれいだなって。これができるなら、もう少し大きい粒をつくることもできるんじゃないかなと思いました」
初めは単色のみでしたが、違う色のガラスを並べて溶かしてみると、ビー玉のようなゆるやかに色の混じったガラスの玉ができました。
新しいチャレンジをし続ける会社でありたい
これを応用すれば、ピアスやブローチなど、身につける製品にできるかもしれない。そう思った安元さんはその後も実験を続けています。
「廣田硝子の良さである、温もりを感じられるものをつくりたいという思いから、ビー玉のようなものをつくってみたり。アクセサリーだからといって女性に限らず、男性でもつけられるネクタイピンのようなものを考えていたりします」
同時に廣田さんは、ガラスを扱うことの難しさを話します。
「今年の初めから安元さんが入ってくれて、やっとここまできました。ただ、今はこうして固まって見える粒も、ガラスが固まりきれていない可能性があって、研究機関で調べてもらう必要があります。些細なことで割れ目が生じたりしますから。ガラスは非常にコントロールが難しい素材でもあるのです」
ガラスは「液体が固体化されたもの」と言われます。結晶化していない物質なので、正確にいえば液体。触るとかたくても、固体と液体の境目にあるような繊細なものなのです。
廣田硝子がこうした難題にあえて取り組むのはなぜなのでしょう。
「これまでは新しい商品をつくり続けることで、よりガラスの魅力を知ってもらえたらと思ってきました。でも世の中の流れやSDGs推進の動きもあり、ものづくりの根本から考えていかないと地場産業を残せないのではと危惧するようになりました。ただものをつくるだけでなく、新しいチャレンジを続ける会社でありたいのです」
ガラス食器以外への広がりも
廣田硝子としてジュエリーをつくるのは、初めての試みになります。
「リサイクルガラスを用いるこの機会に、食器ではない新しい分野に挑戦してみたいと思いました。ジュエリーが正解かはまだわからないのですが、これから、ガラスを用いた新たなものづくりに挑戦していこうと考えています」
従来の商品開発は、責任の生じる仕事ゆえに、社の代表でなければ担えない難しさがありました。ですが今回のリサイクルガラスは売上面だけでなく、会社のこれからの姿勢を示すメッセージ性を込めた取り組みでもあります。
「私一人で進めるのではなく、安元さんが入ることで、新しい世代にとって経験を積む機会になればいいなという思いがありました。自由な発想で色々トライしてもらうことが、彼女にとってもいいトライになるんじゃないかと思います」(廣田さん)
ガラス食器づくりを通して、人びとの暮らしに寄り添ってきた廣田硝子。近年は時計などのインテリア製品も手がけ始めています。これまでの知見を生かして、さらに公共的な仕事、都市デザインの分野などにもガラスを使うことを考えていきたいと語ってくれました。
リサイクルガラスをはじめ、廣田硝子のガラスの可能性の追求は、これからもますます広がっていきそうです。